世代を超えて、時代を超えて ―ある日、ある時、先輩と後輩―(第四回)

第11章「日本におけるポスドク研究者の立場について」

研究所ではよくバーベキューパーティーなどのイベントが行われていました。(植田氏)
「研究所ではよくバーベキューパーティーなどのイベントが行われていました。(植田氏)

菅:では話題を変えて最後に現在日本で深刻な問題となっている常勤職に移ることがなかなかに難しいポスドクの問題に移りましょう。以前は、大学院で博士の学位を取った後は常勤職としてのアカデミックなポストに残るか、企業に行くか、という選択肢があり、それぞれの道で皆安定したポジションを得ていました。しかし、今ではアカデミックにおけるパーマネントなポジションというのは得るのが極めて難しくなってきており、多くの研究者が任期の限られたポスドクという身分を経験します。植田さんの現在の状況はどうでしょうか。
植田:今、ポスドクとしての身分が4年目に入ったところです。日本学術振興会からの研究費は3年間続きますが、現在2年目になるので、来年度(2020年度)末までは現在の場所で研究することが可能です。その後も研究は続けていきたいとは思っています。

菅:あくまでも研究職に就きたいということですね。

植田:そうですね。ただ、今するべきことはしっかり研究を進めて論文を書くことに尽きると思います。ポスドク問題についてですが、私の意見としては、日本では、博士の学位をとった者はアカデミックに残ることこそが使命と思われていて、企業に行くのは良くないという風潮があるのかなと思います。皆がアカデミックポジションに残ろうとするために、ポスドク問題が生じるのではないかと思います。一方ドイツの時の友人や同僚を見ていると、博士の学位を取った後に多様なキャリアパスがあるような気がしていました。博士の学位を取って、州の省庁に努めたり、企業に入ったりする人が日本に比べて多いと感じました。

菅:それについては私は少し異なる意見を持っています。基本的に、大学に残りたいと思う人の数は以前とそれほど変わっていないように感じます。変わったのは、大学の研究室の構造です。私が学生時代には、教授一人、助教授一人、助手二人、という研究室の体制が日本の大学、特に旧帝大などの大きな大学では一般的でした。しかしある時から、研究テーマの増加にともない、教授の数を増やそうとした時期がありました。そのため、助手のポストを減らして、教授のポストを増やす、ということをしました。その結果、教授一人に助教授もしくは助手一人、という体制の研究室が多数できたわけです。トータルの教員の数を変えずにこのようなことをすると、パーマネントな助手のポジションというのが劇的に減ってしまうわけです。それが、ポスドク問題の一因だと思います。

植田:なるほど。

菅:大学に残りたいと思う人の数は変わらないので、パーマネントな助手のポストに就くのが難しくなるわけです。ただ、上の教授からしてみると、研究を精力的に進めてくれる若いスタッフが欲しいので、獲得した競争的資金で期限限定のポスドクを取る、というふうになるわけです。そのようにして、以前の体制を表面的に維持するわけです。ただし、ポスドクは任期があるので、また次のポストを探さなくてはなりません。しかし、助手のポストは依然として少ないままなので、今深刻なポスドク問題が生じているわけです。例えば27歳からポスドクをはじめ、30歳、また、33歳で別のポスドクを経験し、なかなかパーマネントなポジションには就けず、40歳前についに研究に挫折してしまう、という人が多いのが日本の現状のような気がします。

植田:そのように大学の研究室の構造が変わったのはいつ頃からなのでしょうか。

菅:それは今からだいたい20年くらい前の話だと思います。国立大学が大学法人化に伴い大学院の博士課程院生の受け入れ数を倍増したころから徐々に深刻化してきたと思います。

菅:研究者ポストを得るには知名度の高い国際会議で聴衆の興味を引く内容を発表して質疑応答に対応して注目を集める研究者として認識されると言う事が重要となります。あの人は次世代を担う優秀な研究者として注目される必要があります。そうであってはじめてパーマネントなポジションが手にはいるという形でしょうか。私が若い研究者に言っているのは、とにかく国際会議に行って活発な質疑応答をやって来いと言う事です。そうすることでそれなりの効果はあるようです。単に国際会議に行って発表して来ましたというだけでは周りの先生からの評価は高くはなりません。この点は多くの若手研究者に肝に銘じて頂きたいと思います。英語で海外の研究者と対等に議論できるというのが大切な点です。外国から研究者が来日するときにこの人とぜひdiscussionをしたいと言われるような場合も、この人は国際的にも評価されているという事が周りの研究者に分かり国内研究者からもpositiveに評価されます。今なかなかパーマネント職に就けない日本人若手研究者で、研究分野もテーマもどんどん変わっていかざるを得ない現在の状況は長い目で見ると社会の大きな損失だと思います。これをどう解決するかと言う良い案があれば良いのですが。

植田:ポスドクの次のパーマネント職に就くのが難しいという問題点についてですね。

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