第10章 「英語コミュニケーションについて」
菅:そうですか。先ほどの話の中で、高校時代に英語に興味があったという話をされていましたが、クラブ活動などで精力的に取り組まれていたのですか?
植田:特に英語に関するクラブに入ったり、特別なことはしていませんでした。通学に自転車で片道40分ほどかかっていたので、その行き帰りに英語のテープをずっと聞いていました。
菅:リスニングについてはそのような方法で上達されたわけですね。
植田:そうかもしれません。
菅:スピーキングについてはどのようにされましたか?
植田:外国人の方としゃべる機会はあまりなかったのですが、英語を聞きながらそれを自分の口で繰り返すシャドウイングをすることはたまにありました。あと、ラジオ英会話をやっていた時期も少しありました。
菅:テレビの英語ニュースなどは聞いていましたか?
植田:元気のあるときは、夜の11時から放送されていた、NHKラジオの英語ニュースを聞くことが時々ありましたね。
菅:若いうちに語学を勉強して、国際交流に興味を持たれたわけですね。その第一歩としてドイツを選ばれたのは、私は正しいと思います。アメリカにしてもイギリスにしても、方言があり、皆様々な発音の英語をしゃべります。ドイツ人の英語は標準的な発音なので、日本の学生にとっては、非常にコミュニケーションが取りやすいかもしれませんね。
植田:それは私も思いました。先生のおっしゃるように、ドイツ人の英語が非常に聞き取りやすいのに加えて、彼らも完璧な英語をしゃべるわけではないので、我々アジア人が少々間違えてもあまり気遅れすることなくコミュニケーションが取れたように思います。その意味では、英語を使って生活する初めての国がドイツで良かったと思います。
菅:そうですね。私は、英語には昔から興味があり、前々回にもお話ししたように朝日高時代にはESSに入部していました。時折外国人の方にESSに来ていただいて、英語でコミュニケーションを取る、というのが、実際に英語を使うようになったきっかけでしたね。私の場合は、大学での卒業研究(卒研)時代の友人が、卒研が終わると同時にアメリカに留学し、そこで修士課程と博士課程を総計4年間で修了し、その直後当時Stuttgartに在ったマックスプランク金属研究所に移った、という経緯があり、私も、若いうちに国際的な視野を持ちたいと思うようになっていました。その影響もあって、博士課程が終わると同時に東大の助手になるよりドイツかアメリカに行きたいと思い、応募書類を書きました。その結果、ドイツからの招待の方が具体的であり、ドイツを渡航先として選ぶことになりました。結果的にそれは正解だと思いました。ドイツ人は親切で丁寧な人が多いと思います。また、先ほど言ったように、英語でのコミュニケーションも取りやすいと思いました。20代で外国に行ったことは、その後の研究に非常にプラスになったと考えています。特に重要だと思ったのが、自分の研究に対する自分の姿勢を主張するという点です。自分の主張無しには、議論も始まりません。その点が日本と非常に違う点だと思いました。植田さんはどのように感じましたか?
岡山朝日高校ESS部の皆さんと(菅氏)
植田:ドイツでは例えば、偉い先生が来て講演をしたり、普段のセミナーで学生が発表したりする際に、講演後のディスカッションで皆身分に関係なく質問し合っていて、非常に議論が活発でした。日本では、質問するのは偉い先生が多く、学生はあまり質問する風潮がないように思います。何かを質問しようと思って講演を聞くのと、質問しなくていいという意識で講演を聞くのでは飲み込み方が違うと思います。
菅:私は教授時代に数多くの学生を国際学会に送り出してきましたが、その際、英語で必ずいくつか質問するように指導してきました。残念なことに、近年では、国際学会に参加する日本人の若手研究者からの質問が極めて少ないと思います。質問するのは外国の方ばかりです。これでは、せっかく長い時間をかけて英語を勉強してきたのがもったいないと思います。下手でも良いので、国際学会でどんどん質問する、というレベルに達して欲しいと思いますね。それも私の教育の信念のひとつでしたね。あとは、私の場合は、博士課程の学生もどんどん外国に留学させました。阪大に所属しながらも、ドイツで研究を足掛け1年、2年いやポスドクも含めれば3年、と行う若手研究者が出てきたりしました。そういう人材が今、研究者として大成し、国際的にも活躍しています。やはり、英語でコミュニケーションを取り、自分の意見を主張できるようになるというのは、海外留学の大きなメリットだと思いますね。
植田:私も同感です。ドイツでは身分に関係なく質問や議論を行うので、自分も失敗を恐れず議論に参加することができました。海外で学生をしている間に英語で質問や議論を行う練習をしないと、なかなかチャンスはやってこないと思い、2年目以降は積極的な発言を心がけました。今でも緊張はしますが、その経験のおかげで、国際学会でも気遅れすることなく質問が出来るようになりました。
菅:あともう一つ、特に国際学会で発表する若い研究者に指導しているのが、参加する前に必ずボイスレコーダーで自分の発表を録音して発表までに後で聴衆の一人の立場で聞いてみるということです。そして、どこをもう少し強調するべきか、などを考慮し、修正し磨き上げた英語で本番の発表を迎えるように指導しています。これはシンプルな方法ですが非常に効果があります。限られた時間の中で自分の主張を最大限伝えようと思ったら、必ずやった方がよいと思いますね。