閑話休題
植田:今回は大学院生と名誉教授という立場の世代交流で少し緊張しました。
菅:確かにそう言う面はあったとは思いますが、こういう交流での情報交換が次の世代の生徒やあるいは同窓卒業生に何らかの形で役に立ってくれたら、それ以上言うことは無いと思います。
植田:朝日高校で時々英語での講義をされていたそうですが、どういうきっかけだったのですか?
菅:平井校長先生、平松先生と3人で話し合う機会があり、これからの国際化に向けて何をしたらよいのかと言う議論の中で、早い時期から実用英語にもなじんで見る機会が生徒にあるのが良いのではないかということで始まったわけです。朝日高校の先生方の熱意はすごいと思います。朝日高校では私のほかにももうお一人、京大の名誉教授の方に数学を英語で講義いただいているようです。私の場合は3年間にわたってやらせていただきました。希望者が参加する形ですが、わざわざ交通費をかけて東京、京都、大阪などに行かなくても刺激のある講義が聴けるようになったのは、先生方の熱意の賜物と思います。朝日高校は私が在学した50年前もそうだったのですが、今も素晴らしい高校だと思います。
植田:私は高3の時に、平松先生に紹介していただいた、東大の理学部物理学科の教授の方のセミナーを、東大のキャンパス見学もかねて聴きに行ったことがあります。大学教授の授業を受けるというのは、高校生にとっても非常に刺激になると思います。
菅:さてドイツのボン大学の研究室ではどのくらい英語でコミュニケーションをとっていますか?
植田:9割以上が英語です。研究所には日本人は私だけですので日本語は使いません。研究所でも技官の方とはドイツ語で話すことがありますし、研究所外ではドイツ語もよく使います。ドイツでソフトテニスのチームに入っています。月1-2回Frankfurtで練習会があるので出かけて指導などもしていますが、その会長さんともドイツ語で話します。実は今日来ているKarlsruheに、同じソフトテニスチームのドイツ人の友人がいるので、今日はその友人に街を案内してもらいました。
菅:私は今も週1-2回若い人と卓球をしています。ドイツではテニスはクラブ制で会費が高いようなので遠慮しています。Halleのマックスプランク研究所では今は中国人、インド人、ブラジル人、ポーランド人、などが多く、日本人は多くはありません。しかし国籍に関わらず研究の上でのStress発散には汗をかくことが一番ですから何らかのSportsが出来る環境が望まれます。汗をかくと良いアイデアが出てくることが良くありますよね。交流の面でも良いですしね。日独研究交流を30年以上推進してきたので、国際交流は重要だと思っています。Sportsはその交流のきっかけにもなることもありますし。サイエンスの面では、自分の殻に閉じこもらず、常に外部にも目を向けてより広い視野で研究を進めることが大切だと思います。今回は光電子分光の分野で革命的とも思われる手法に出会うことが出来たと言う意味で日独協力がうまく行った例です。これからの数年間この分野の発展が楽しみです。
植田:若い頃はどのような研究戦略を立てられていましたか?
菅:難しい質問ですね。研究戦略と言われるなら、27歳でドイツに来てから考えるようになったかなーと思います。その頃から国際的に通用する研究をしようと思いました。今も同じ考えです。新しいことに挑戦する姿勢、好奇心を持って物を考えること、何事にも疑問を持って考えることが大切ですよね。後は運ですかね。また教育者としては次世代の若者をEncourageすることが一番大切だと確信しています。
植田:先生はどのようにして大学で学生・院生をEncourageされましたか?
菅:それは大学院生時代に東大工学部物理工学科の指導教官の助教授から学びました。その先生は、ここは自分がよく分かっているから皆さんに丁寧に教えますよ、だけど、ここは自分は勉強していないので君自身で勉強して見ないですかと言うような姿勢でした。学生の研究を見ている時に、こう考えて見たらとか、こういう実験は面白いのではないかなー、やって見たらと言うような姿勢ですね。一方で、そんな実験じゃーだめだね、やり直し、とかばかり言うような教育では学生は伸びませんね。身近でもそう言う研究室をいくつか見てきましたが、それでは先生も学生も不幸です。
植田:色々聞かせていただいてありがとうございました。
菅:植田さんも健康に気をつけて頑張ってください。近い将来ぜひ日本に帰って次世代研究者を育てられるポストに付いてください。
世界旅 ギリシャの島(菅氏)
【第三回に続く】