第3章 「入学後の進路変更の可能性について」
菅:植田さんの場合は、理科Ⅰ類に入学して、2年生の後半から農学部に進学したわけですね。私の頃には極めて希なケースです。そのきっかけを教えてもらえますか?
植田:もともと物理学者を夢見て東大の理科Ⅰ類に入学したのですが、大学の数学の授業でショックを受けました。まるで哲学のようで、これは努力すれば理解できるというものではないな、と感じました。授業は最前列に座っている5人の学生と先生の間で進んでいくわけです。物理を極めるには数学が必要なのはわかっていましたが、自分がこのような人たちと渡りあっていくことは想像できませんでしたし、これが本当に自分のしたいことなのか、という疑問も生まれてきました。もともと、英語が好きだったことと、家で野菜栽培をしていたことから、その二つを生かして農業の国際協力を将来できたら良いな、と高校2年生の時に思っていたことがありました。大学で物理の道を断念しかけていたとき、その夢がまた蘇って来たのです。
菅:それが可能だったのは東大の進学振り分けのシステムのおかげですよね。東大の場合には1年半の猶予を持って進学先を決められるのはとてもありがたい制度だと思います。もう半世紀以上もこの制度を維持できているというのも良いことです。
植田:私の学年から、学科間の行き来がしやすくなりました。理科Ⅰ類から数十人が農学部に進学したと思います。そもそも、高校3年生の時点で大学の学問を俯瞰するのは難しいと思います。知識が非常に限られた中で自分の専攻分野を決めろ、と言われても、なかなか決められないものでしょう。決めたとしても、それは高校生なりの視点からであって、上から俯瞰してみると実際にはイメージと全く違う専門だったということもありえるわけです。それで学問に興味を失ってしまう人も多いと思うのです。一通り学問分野を知った上で選択のできる東大のシステムは非常に良いと私も思います。
菅:他の大学でもそういうシステムが増えると良いですね。単なる高校の延長の勉強ではなく、全国各地からのさまざまな学生と議論をし、さまざまな講義を取り、その中で自分の専門分野を決められるのが理想ですね。
研究室運営の姿の一例:学科sports大会直前 (菅さん)