第1章 「高校時代にやり残したこと」
還暦を少し過ぎ元気だった頃の高校以来の親友たちと(中央:菅氏)
菅:最初に、高校時代にやり残したこと、是非やっておけば良かったことなどを話してください。
植田:まずひとつは、勉強と部活以外の経験です。日々勉強と部活ばかりをしていると、学校と家の往復になってしまいます。今振り返ってみると、幅広い視野を持ち、自分が日本の中、世界の中で、どのような立ち位置にいるのかということを認識しておく必要があったと思います。高校時代に所属していたソフトテニス部では主将も務めていましたが、そのことを勉強しない言い訳にはしたくありませんでした。そのためもあり、可能な限り時間を見つけては勉強に励んでいましたが、その分、他のことに割く時間は多くはありませんでした。
菅:部活と勉強は一所懸命やったけれども、その他の面を犠牲にした、ということですね。部活は週にどれくらいやりましたか。
植田:平日は週3-4日、週末は半日ほどやっていました。
菅:かなり本格的な部活ですね。
植田:そうですね。しかし一度続けると決心したので辞めることは考えていませんでした。しかし、勉強と部活が大部分を占める生活の中、他のことに充てる時間を十分持てなかったという気がします。おおむね、高校時代の生活には満足していましたが、挙げるとすればこの点ですね。
菅:なるほど。しかしそこは難しい点ですよね。私も高校時代に、ESS(英語会話)部の部長をしていました。部員は全部で20人程度。週に一度集まって英語で会話をするというものでした。時にはネイティブの外国人講師を招いて話をすることもありました。しかし活動時間は毎週1-2時間程度と比較的軽いものでした。先ほど、部活と勉強以外のこともやっておくべきだった、と言うことですが、では具体的に何を体験すべきだったのですか?
植田:例えば、本を読むとか、映画を見るとか、部活やクラスだけにとどまらない幅広い友達を作るとかいったことですね。クラスと部活と家だけで生活が完結していました。ドイツに来てから本を読んだり映画を見たり、幅広い国籍やバックグラウンドを持つ友人たちと交流する機会が増えて、その大切さが分かるようになりました。
菅:私の朝日高在学当時は、5%入学制度というものがあって、学区外からの通学生が20名強いたわけです。同じ中学校出身者よりもむしろ他中学校や学区外からの生徒と話をする時間の方が多かったですね。
植田:それは自分の視野を広げるためですか?
菅:異なる環境を体験した友人がどのような考えでどのように勉強しているのか、ということに興味がありました。
植田:私は効率を重視するあまり、余計だと思ったことは省いていってしまったんですね。本もあまり読まなかったですし、映画もテレビもあまり見なかったです。
菅:まあ朝日高で受験を目指す者にとっては、テレビを見ている時間はそれほどないですよね。私の場合も、週に一つの番組以外はほとんどテレビは見ませんでした。その点ではお互い似た点がありますね。
植田:テレビをたくさん見ていた人は、もっと勉強しておけばよかった、と思うのかもしれないですし、勉強ばかりしていた人は、もっと一般常識や教養を身につけておくべきだった、と思うでしょうし、何と言うか、トレードオフのような感じですよね。
菅:そうですね。
植田:私は、高校三年生のときに、全国高校化学グランプリと、物理チャレンジという、全国の高校生を対象にした二つの科学イベントに参加させてもらうことができました。高校が受験一色になる中、受験のための勉強が嫌になり、自分は受験のためではなく純粋に学問をするために勉強しているんだ、とささやかな反抗心を持って参加しましたね。もちろん、イベントそのものにも興味がありましたが。その中で、全国各地からの高校生と話をする機会がありました。
菅:それは良かったですね。高校時代でのそのような体験は非常に貴重だと思います。私の頃はそういう全国行事はなかったです。
2005年、全国高校化学グランプリにて(写真左:植田氏、撮影:引率の米田先生)
写真右は同級生の松本尚也氏。共に受賞。
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